刑法 論証 旧司法試験 平成8年度 第一問 不真正不作為犯,「危険の現実化」,未必の故意,中止未遂,酌量減軽

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刑法 旧司法試験 平成8年度 第一問

甲および乙は,友人Aに対して,2人で殴る蹴るの暴行を加え,傷害を負わせた。甲および乙は,Aを甲のアパートに連れて行き,傷の手当てをしていたが,Aが次第に高熱を発し,意識もうろうの状態になったため,Aが死亡するかもしれないと思ったものの,発覚を恐れ,放置しておくこととした。しかし,その後,乙は,Aがかわいそうになり,甲の外出中にAを近くの病院に運び込み,看護婦に引き渡した。ところが,当時,その病院の医師が,たまたま外出中であったため,手遅れとなり,Aは,甲及び乙の暴行による内臓の損傷が原因で死亡してしまった。

甲及び乙の罪責を論ぜよ。

刑法の論証の書き方(答案例2を危険の現実化に改善)

平成30年現在となっては非常に古い問題であり、なお今でも不真正不作為犯の論じ方を学ぶ基礎問題としてメジャーな問題だと思います。

色々と本やネットを参考にさせていただいて、自分なりにまとめてみたものになります。

相当因果関係説には立たずに素直に判例に従って「危険の現実化」で書いています。

本問では、中止未遂と酌量減軽は加点事由ながら、問題文からして拾っておかないと他の受験生との差がつきにくいところだと思います。

最近の採点雑感を見ているといわゆる論証パターンへの批判が異常なほど多く、また、人によっては例えば「刑法の法益保護機能が云々」や「刑法の自由保障機能から云々」といった抽象的な理由付けでは点が全くあるいはほぼ乗らない、と言い切っている人もいるので、今回載せている答案例1は旧型、答案例2を改良型とし、不真正不作為犯の根拠付けにつき改良したものとして併記しておきます。(『刑法総論講義案』を参考にしました。)

また、実行行為の認定の中で「法益侵害の具体的な危険性」を論じるという方式が最近のトレンドだよとも聞いているので、それに適応した内容にしています。

(追記1)見栄えのために行頭や複数ネストあとの改行にあわせて空白スペースを入れたのに、Wordpressによってご丁寧にすべて削除されてスペースを詰められてしまったようです……がっかりorz

(追記2)まさかの、論証の途中に自動的に挿入されるGoogle広告……なんとかせな(白目

(追記3)見栄えのために白色の「. 」を一部段落の頭に追加して見栄えを少し改善してみました。

論点

不真正不作為犯

刑法ではまず最初に習う論点であろう、不真正不作為犯の実行行為性の論点です。

教材となるのも、これまた定番であるところの旧司法試験の平成8年刑法の第一問です。

伊藤塾の論証パターンは基本的に長いのでそれぞれが現状トレンドと自分にあった形に手直ししてコンパクト化しなければならないので、自分なりにまとめてみました。

→その後、更に改良しました。下記の答案例2を参照。めちゃくちゃにコンパクトになりました。但し、これでちゃんと点が乗るかどうかは不明です。

刑法上の因果関係(危険の現実化)

折衷的相当因果関係説はもう使わないらしいので完全に「危険の現実化」説に準拠させたいです。

(追記)準拠させました。(答案例2)

本文は行為後の介在事情があるパターンですので、通常の危険の現実化の判断に介在事情の寄与度を加えています。

未必の故意(刑法38条1項本文)

つい忘れがちですよね(苦笑)

故意の認定を落として、あとで気付いて絶望するあの時間がたまらなく辛いですよね……一言、サラッと認定すればいいだけなのに……orz

中止未遂(刑法43条但書)

中止未遂の論点は展開せずにラストで1行で片付けていい程度だと思いました。

『甲及び乙は』という主語を繰り返し用いるのにうんざりしているので、何か良い解決方法がないか模索しています。その対策として、『甲の罪責』と『乙の罪責』と分けても良いのですが、そのメリットを感じないのでひとまとめにしています。

酌量減軽(刑法66条)

中止未遂が成立しないケースでも、行為の内容によっては酌量減軽の余地が一応あるという点にも一言触れてあげるとよいでしょう。

本問では明らかに乙が犯罪発生防止の為の努力をしているため、これは酌量減軽の考慮事由に該当すると判断して加点狙いのオマケ程度に触れています。

解答例1(旧来型)

第1 甲と乙の罪責

1 甲及び乙が「共同」してAに対し殴る蹴るの「暴行」を加え,よって「傷害」を追わせた行為(以下,先行行為)につき傷害罪の共同正犯(法60条,204条)が成立する。

2 甲及び乙が「Aが死亡するかもしれない」と思いつつAを放置した行為(以下,放置行為)につき,以下のように殺人罪の共同正犯(60条,199条)が成立する。

(1)Aを放置するという不作為が殺人罪の実行行為に当たるかを検討する。

ア 実行行為とは特定の構成要件に該当する法益侵害の現実的危険性を有する行為をいうところ,不作為による法益侵害は可能である。(不退去罪 130条後段参照)

. ただし,罪刑法定主義(憲法31条)と謙仰主義の観点からあらゆる不作為を実行行為と解するのは不相当であり,かかる不作為が作為による実行行為と構成要件的に同価値といえる場合に限って実行行為性を認めるのが相当と解する。

. 具体的には,法益侵害を防止する ①法的作為義務 があり,かつ ②右作為が可能かつ容易 である場合に実行行為と同価値性を有するものとする。

イ 本件において甲及び乙は先行行為によりAに傷害を負わせるという,Aの死亡結果発生の危険性を自ら生じさせている。

. また,甲及び乙はAを甲のアパートという密室に連れ込むことで,Aの生命保護を自らに具体的・排他的に依存させたといえる。

. よって,甲及び乙には条理上,Aを放置せずに救助する法的作為義務があったと言える。(①充足)

. そして,甲及び乙は救急車を呼ぶなどAを救助することが可能かつ容易であったと言える。(②充足)

ウ 以上から,当該不作為は殺人罪の実行行為に当たる。

(2)Aの死亡という結果が発生した。

(3)甲及び乙の放置行為とAの死亡結果発生との間に因果関係があるかを検討する。

ア 刑法上の因果関係は違法有責行為たる構成要件該当性の問題であり,結果発生を本人の実行行為に帰責することが妥当といえるものなければならない。

. そこで,①条件関係 を前提として ②当該行為の有する危険性が結果として現実化した といえる場合には因果関係が認められると解する。

イ 本件において甲及び乙がAを放置せずに救助する行為があれば,Aの死亡結果は十中八九発生していなかったといえる。

. よって条件関係は認められる。(①充足)

. 次に,放置行為の当時,Aは傷害を負っていただけでなく次第に高熱を発し意識もうろうの状態になっていた。かかるAを放置する行為はAの死亡結果発生につき高度の危険性を有する行為といえ,結果発生に寄与した程度はきわめて高いといえる。

. 他方,乙はAを近くの病院に運び込んだがたまたま医師が外出中だったという事情があるが,医師が外出中であることは社会通念上よくあることであり,結果発生への寄与度が高いとはいえない。

. 以上によれば,Aの死亡結果は甲及び乙の放置行為が有する危険性が結果として現実化したものといえる。(②充足)

ウ 以上から,因果関係が認められる。

(4)甲及び乙は,Aが死亡するかもしれないと思いつつ発覚を恐れて放置行為に及んでおり,死亡結果発生につき認識・認容があったといえるため,殺人罪の未必の故意(38条1項本文)が認められる。

(5)以上により,本罪が成立する。

3 罪数

(1)甲及び乙の行為に ①傷害罪の共同正犯 と ②殺人罪の共同正犯 が成立しうるが,両罪の行為は時間的・場所的に近接する上,被害法益に実質的な同一性が認められるため,①はより重い②に吸収される。

(2)本件において乙は途中でAがかわいそうになり,病院に連れて行くという救助行為を行っているが,Aの死亡結果が生じているため殺人罪は既遂となり,当該行為に中止未遂(43条但書)は成立せず、乙に対する酌量減軽(66条)の考慮事由となるに留まる。

(3)よって,甲及び乙は殺人罪の共同正犯の罪責を負う。

以上

解答例2 不作為犯と「危険の現実化」(青字部分)

第1 甲と乙の罪責

1 甲及び乙が「共同」してAに対し殴る蹴るの「暴行」を加え,よって「傷害」を追わせた行為(以下,先行行為)につき傷害罪の共同正犯(法60条,204条)が成立する。

2 甲及び乙が「Aが死亡するかもしれない」と思いつつAを放置した行為(以下,放置行為)につき,以下のように殺人罪の共同正犯(60条,199条)が成立する。

(1)Aを放置するという不作為が殺人罪の実行行為に当たるかを検討する。

ア 不作為の実行行為性を肯定するためには,その不作為が実質的に見て作為犯の実行行為と同等といえる強度の違法性を備えていることを必要とする。

. 具体的には,行為者に構成要件的結果発生を防止する ①法的作為義務 があり,かつ ②その作為が可能かつ容易 である場合に同等性が認められる。

イ 甲及び乙はAに傷害を負わせるという先行行為により,Aの死亡結果発生の危険性を自ら生じさせている。

. また,その後にAを甲のアパートという密室に連れ込むことで,Aの生命保護を自らに具体的・排他的に依存させたといえる。

. よって,甲及び乙には条理上,Aを救助する法的作為義務が発生(①充足)しており、かつ、救急車を呼ぶ等の救助行為が可能かつ容易であった(②充足)と言える。

ウ 以上から,当該不作為は殺人罪の実行行為に当たる。

(2)Aは死亡した。

(3)放置行為とAの死亡結果発生との間には、以下のように因果関係が認められる。

ア 刑法上の因果関係は,社会通念に基づいた違法有責行為たる構成要件該当性の問題であるところ,結果発生を本人の実行行為に帰責することが相当といえるものでなければならない。

. そこで,①条件関係を前提として②当該行為の有する危険が結果として現実化したといえる場合には因果関係が認められると解する。なお,本件では傷害行為のあとに介在事情が存するため,要件②の判断については結果発生までの各事情の寄与度を比較衡量する。

イ 本件において甲及び乙がAを放置せずに救助する行為があれば,Aの死亡結果は十中八九発生していなかったといえる。

. よって条件関係は認められる。(①充足)

ウ 放置行為の当時,Aは傷害を負っていただけでなく次第に高熱を発し意識もうろうの状態になっていた。かかるAを放置する行為はAの死亡結果発生につき高度の危険性を有する行為といえ,結果発生に寄与した程度はきわめて高いといえる。

. 他方,乙はAを近くの病院に運び込んだがたまたま医師が外出中だったという事情があるが,医師が外出中であることは社会通念上よくあることであり,結果発生への寄与度が高いとはいえない。

. 以上によれば,Aの死亡結果は甲及び乙の放置行為が有する危険が結果として現実化したものといえる。(②充足)

エ 以上から,因果関係が認められる。

(4)甲及び乙は,Aが死亡するかもしれないと思いつつ発覚を恐れて放置行為に及んでおり,死亡結果発生につき認識・認容があったといえるため,殺人罪の未必の故意(38条1項本文)が認められる。

(5)以上により,本罪が成立する。

3 罪数

(1)甲及び乙の行為に ①傷害罪の共同正犯 と ②殺人罪の共同正犯 が成立しうるが,両罪の行為は時間的・場所的に近接する上,被害法益に実質的な同一性が認められるため,①はより重い②に吸収される。

(2)本件において乙は途中でAがかわいそうになり,病院に連れて行くという救助行為を行っているが,Aの死亡結果が生じているため殺人罪は既遂となり,当該行為に中止未遂(43条但書)は成立せず、乙に対する酌量減軽(66条)の考慮事由となるに留まる。

(3)よって,甲及び乙は殺人罪の共同正犯の罪責を負う。

以上

課題

冒頭にも書きましたが、『甲及び乙は』が並んでるのでどういう風にごまかすかなーという感じです。

或いは、甲と乙で罪責を分けて書いてもいいのですが、この本問については甲乙セットで論じたほうが全体としてコンパクトにまとまるので判断が難しいところです。とは言え、練習でもあるので分けた場合も後日作ってみたいと思います。

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